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タイのM&A - 最新5事例でみる業界トレンド、実務動向 -



はじめに

タイはアメリカ、中国、インドに次ぐ世界第4位の規模に至る日本企業進出数を誇る事からも分かる通り、日本産業との結びつきが非常に深い国です。


本稿ではそんなタイを対象とする日本企業によるクロスボーダーM&A概況について、最新事例を5件取り上げ、そこから見えてくる業界トレンド、実務の動向を解説しました。


 

事例①:サントリー食品インターナショナル、ペプシコのタイ飲料事業会社を買収(2017年11月公表

【案件概要】

サントリー食品インターナショナルはペプシコの関連会社であるタイの飲料事業会社International Refreshment (Thailand) Co., Ltd.の株式の 51%を取得しました。 ペプシコの強固な事業基盤とサントリー食品インターナショナルグループが培ってきた緑茶などを中心とした健康志向の商品開発力を活かしタイの飲料事業を拡大することを目指しており、取得価格は330億円とのことです。



【視点】

高機能・高付加価値である商品ほどコストはかかる為、マーケティングの観点からはコスト増分を価格に転嫁できるかどうかが上市検討の分かれ目になります。日系メーカー各社としても海外マーケット、特に新興国市場を分析する際に注視しているポイントかと思います。


本M&Aからは、タイ国の経済成長に伴い、成熟した消費者がより高機能な商品を求めるようになっている事を受け、サントリーの「健康志向の商品開発力」を活用した買収シナジーに期待されたものと理解することができるでしょう。


 

事例②:ユニ・チャーム、タイの紙おむつ大手DSGTを600億円で買収(2018年9月公表

【案件概要】

ユニ・チャームは、タイの大手衛生用品メーカー、DSG International(Thailand)Public Company Limited(売上高279億円、純利益8億2600万円、純資産92億2000万円)を買収したと発表しました。DSGTの持ち株会社の全株式を5億3000万ドル(約600億円)で取得し、同社の海外のM&A(合併・買収)案件としては過去最大規模となります。


DSGTはベビー用紙おむつと大人用紙おむつの製造・販売を手がけ、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポールに拠点を置いています。ベビー用紙おむつで「BabyLove」「Fitti」「PetPet」、大人用で「Certainty」といった有力ブランドを保有し、東南アジアで高いシェアと認知度を持っています。



【視点】

ユニ・チャームは東南アジア全域で商品を展開するDSGTをグループに加えることで、中低価格帯の品ぞろえを強化することができました。ユニ・チャームは2011年にはベトナムのダイアナ、2013年にはミャンマーのミャンマー・ケア・プロダクツの買収を行っており、現地の紙おむつメーカーの買収により、現地市場の取り込みを強化しています。


本M&Aは、ブランドの獲得という効果も期待できます。

消費財のブランド、特に紙おむつにように衛生に関わる領域のブランド選好は固定化しがちであり、かつブランド確立にも長い時間を要します。従って、現地市場への新規参入を図る日本企業が一朝一夕にシェアを広げる事は難しく、M&Aにより“時間を買う”成長戦略と理解することができます。


 

事例③:メディカルネット、タイの歯科医院運営事業者Pacific Dental Careを子会社化(2020年10月公表

【案件概要】

メディカルネットはタイ子会社を通じて、タイで歯科医院運営事業を手がけるPacific Dental Care Co., Ltd.(売上高5098万円、営業利益188万円、純資産354万円)の全株式を取得し、子会社化しました。 Medical Net Thailandは2017年から、タイで歯科医院の運営を行っており、Pacific Dental Careの子会社化で新規の歯科事業を推進するのが狙いとのこと。 取得価額は5371万円です。



【視点】

飲食や病院等、実店舗型のサービス業の海外進出・拡大における典型的なボトルネックは、「不動産物件の探索」と「優秀な人材の確保(および教育)」の2点です。歯科医院の店舗展開も例外ではなく、優良物件の確保と、有資格者の採用が肝になります。これを海外で日系企業が単独で行う事は相当難易度が高く、また自社のコア・コンピタンス(事業の本源的な強み)にフォーカスし、その他の部分は現地企業の力を借りる事がリソース配分としては合理的です。


メディカルネットは既にタイ国で事業運営を行っていました。しかし、本M&Aを通じて現地のネットワークを確保する事で、今後の更なる事業拡大に向け、大きく歩を進めたと見ることができます。


 

事例④:TIS、タイのIT企業のMFECをTOBで子会社化(2020年10月公表

【案件概要】

TISは6日、タイのITサービス企業MFEC Public Company Limited(売上高127億円、営業利益8億3600万円、純資産64億4000万円)に対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、子会社化を実施しました。本取引によって、従前24.9%の持ち株比率を49%に引き上げます。取得価額は約18億300万円とのことです。

MFECはタイ証券取引所に上場する企業向けITサービス大手であり、TISは2014年に同社と資本・業務提携し、協業の推進や追加出資を通じて関係を強化してきました。傘下に取り込むことで、MFECの事業構造転換を加速するとともに、グループとして海外事業の拡大を目指すとのことです。



【視点】

BtoB(企業間取引)において新規顧客の開拓は容易な事ではありません。ITサービスの様な厳格なセキュリティが求められる分野において、顧客としては既存サービスに余程の不満が無い限り、スイッチングには消極的となります。これが、海外市場・海外顧客が相手であれば、更に難易度があがることは想像に難くありません。


本M&Aによって、TIS社はタイ国上場企業を中心とする優良顧客を手にした事になり、今後はMFEC社が提供する既存サービスに加え、自社サービスのクロスセルにより事業拡大を目指していくものと思われます。


 

事例⑤:放電精密加工研究所、タイのアルミ押出用金型合弁会社を子会社化(2019年12月公表

【案件概要】

放電精密加工研究所は、アルミ押出用金型製造のタイ合弁会社KYODO DIE-WORKS(KDT)の株式を追加取得して子会社化しました。1987年に現地得意先と折半出資でKDTを設立した経緯がありますが、従来50%だった持株比率を51%に引き上げる事で経営権の取得を行います。金型製造に加え、近年は自社開発のサーボプレス機や機能性塗料などの拡販に力を入れており、経営のスピードを速めるには子会社化が欠かせないと判断したとのことです。取得価額は1300万円とのことです。



【視点】

海外進出に際し、現地企業の人脈・知見を借りるべく合弁形態で出資するという取組はよく見られます。最初から完全買収、或いはマジョリティ保有での進出と比べ、現地パートナーに株主として参画し資本的な利害関係を持ってもらう事で、高いコミットメント期待できる点でメリットのあるスキームです。


本取引による経営権の取得は、経営スピードの拡大を企図するものとのことですが、自社の目指す経営のより迅速な実行の為、マジョリティ(過半数)に支配比率を上げるものと見ることができます。一方で、依然として51%の持株比率に留めている事からも、今後もパートナーとの協業形態を維持した展開を重視したと見る事ができます。

 

タイ国のM&A市場の概況・投資環境につき、理解を深めて頂く事ができたでしょうか。なお、本稿はあくまで全体像を理解頂く事に主眼を置いています。個別のご相談につきましては弊社担当者が直接承りますので、お気軽にご連絡下さい。


最後までご覧頂き有難うございました。

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