はじめに
国民的麺料理のフォー、美しい民族衣装のアオザイ、旧宗主国フランス式の建築が残る町並みで日本でも知られます。
2020年、「世界で最もダイナミックな都市(City Momentum Index, JLL調査)」の3位、7位に選出されたホーチミン、ハノイを有するベトナムはエネルギーに満ち溢れた国です。街中をバイクで往来し、カフェで寛ぐ若者で賑わう都市の風景を眺めるだけで、著しい経済成長を遂げているこの国の勢いを感じる事ができるでしょう。
国策としてIT産業の育成にも力を入れ、近年は日系IT企業のオフショア開発の拠点としても注目されています。日系メーカーの一大製造拠点であった中国からの移転先としても、その存在感を増しています。平均年齢30歳ほどの若者達が経済成長と内需を牽引していく点も注目され、市場としての魅力度も高い国です。
本稿ではそんなベトナムの市場概況について、最新動向から外資規制に関する情報まで投資環境の全体像を解説しました。
基本情報
首都:ハノイ
通貨:ドン (1ドン:約0.005円)
人口9,872万人 (2020年)
平均年齢:31歳 (2020年)
人口ボーナス終了年:2041年
政治体制:社会主義共和制
主な宗教:仏教 (80%)
ベトナムは現在、数少ない社会主義国家の一つです。中国、キューバ、北朝鮮が日本ではよく知られていますが、東南アジアではベトナムとラオスの2国も社会主義体制をとっています。一党独裁、政府転覆罪の存在など、余りポジティブな文脈で語られる事はありませんが、先のコロナ禍では機動的な対策を講じた事でいち早く感染拡大を防いだ事で、投資先としてのベトナムの評価は高まっているようです。
また、先んじて経済成長を遂げたタイの8歳程度若い平均年齢と、ASEAN域内ではインドネシアに次ぐ規模の9,800万人強の人口を有しています。ベトナム政府は、2025年までに人口が1億人を突破すると見込んでいるとのことです。
マクロ情報
GDP総額(2018年、名目):約27兆円
GDP成長率(2018年、実質):7.1%
貿易収支(2019年):約1.1兆円
経常収支(2018年):約6,500億円
株式市場時価総額(2020年3月):約14.1兆円
2年国債利回り(2020年3月):2.67%
10年国債利回り(2020年3月):3.54%
法定最低賃金:約20,000円/月
非製造業・マネージャーの平均賃金:約14万円/月
実質賃金上昇率(2018年):4.1%
大卒割合(2018年):22.6%
スマートフォン普及率(2018年):72%
日系企業進出数(2018年):1,816社
ベトナムは国際協力銀行の「海外直接投資アンケート調査結果」の2019年調査において、インド、中国に次ぎ、従前3位であったタイに変わり3位となりました(タイは4位)。GDP前年比7%という随一の経済成長、中国に変わる製造拠点としての魅力が下支えした結果と思われます。
一方、賃金上昇率4%と高水準にあり、専ら低コストを期待した安易な進出検討には注意が必要です。
なお、2018年におけるベトナムの一人あたり名目GPDは2,590ドルであり、これは低所得国(5,000ドル未満)の定義に当てはまります。近年の経済成長に注目が集まりますが、数字だけを見ればインドネシア、フィリピン、ラオスに次ぐ水準にあります(マレーシア、タイは中所得国)。
投資環境
1. 外資規制
ベトナムにおける投資活動に関する一般的な規制を定める法令として、投資法が存在します。旧投資法の大幅な改正を行っており、2015年に施行されたものです。
ベトナムは2007年のWTO加盟後、証券業、倉庫業、小売・卸売業(ただし後述参照)等の多くの分野について、現在までに外資100%を解禁してきましたが、産業分野によっては依然、外資規制が残っています。
政府が掲示する「投資ネガティブ・リスト」により業種毎の詳細な投資条件(外資出資比率、特別許可の要否、投資地域等)が規定されており、外資出資比率制限は事業分野に応じて幅があります。また、業種別に最低資本金の定めも存在します。従って、個別にリストを確認する必要があります。
さらに、不動産事業や広告業など、外資比率の上限が定められていない業種があり、その場合は所轄する行政の担当官の裁量(定性的判断)により要求される比率が変わりえます。
また、ネガティブリストの出資規制業種に該当がなければ、外国資本の出資比率の上限規制がなく100%外資出資が可能ですが、建設業など、免許の取得が別途必要な業種・業界の場合、外資制限が課されるケースもある為、注意が必要です。
土地所有に関しては、土地法が「土地は全人民の所有に属する」と規定し、所有者を代表する国家が統一的に土地を管理しています。この点、ベトナム人・企業と外国人・外国企業との別を問わず、土地については,(直接・間接か異なるものの)国から「土地使用権」の割当を受け,或いは賃借することとなります。 いわゆる外資系企業も,国から土地使用権の割当等を受け,土地使用者となることは可能です(土地法5条7項)。
なお、建物については私有化が認められており,外国人・外国企業でもこれを所有し、登記することができます。
2. 企業法
日本の会社法にあたるのが、当国の「統一企業法」です。
株主総会
普通決議は出席株主の議決権総数の「65%以上」で可決されます。
一定の重要事項に関する特別決議は、出席株主全員の議決権総数の「75%以上」によって可決されます。この点、日本における会社法における可決要件がそれぞれ、普通決議事項では過半数、特別決議事項の2/3以上(一部、「特殊」決議は3/4以上)であるのと異なります。
株主は少なくとも3名以上必要です。
取締役会
決議要件は過半数が原則となっています。取締役会は、3名から11名で構成され、ベトナムに常駐しなければならない取締役の人数は、定款に規定することができます。 任期は5年以内ですが、再任も可能です。
なお、法的代表者(サイン権者)に国籍の制限はありませんが、ベトナム常駐の要件があり、30日以上ベトナム国外に滞在する場合には、書面にて他者に委任する必要がある点につき、注意が必要です。
3. 会計基準
ベトナムの会計制度は、財務省が規定するVietnamese Accounting Standards (VAS)を基礎とし、一部通達によって補足がされています。IFRSへのコンバージェンスは進んでいますが、原則的にIFRSの考え方が踏襲されているものの、金融商品会計、固定資産の減損基準、従業員給付等で相違があります。
経理実務に関するポイントとしては、財務省が指定する勘定科目・コードを使用した記帳が求められている事が挙げられます。その他、暦年以外による決算期の選択を許容しつつ、その場合は3月、6月、9月のそれぞれ末日を決算期末とする決まりがあります。
4. 税制
法人所得税(表面税率):20%
日本への配当送金課税(最高税率):0%
日本への利子送金課税(最高税率):5%
日本へのロイヤルティー送金課税(最高税率):10%
付加価値税(標準税率):10%
他国と比較した際、損金算入の範囲が狭く、税務調査が比較的厳しいといわれることがあります。
最後までご覧頂き有難うございました。ベトナムの投資環境につき、理解を深めて頂く事ができたでしょうか。なお、本稿はあくまで全体像を理解頂く事に主眼を置いています。個別のご相談につきましては個別にご連絡下さい。
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